★お姫様になる


1年から3年までは同じクラスだったのですが4年生でクラス替えがありました。知っている人も何人もいたのですが、知らない人も何人もいて、その人たちがたいてい私のことを最初女の子だと思っていたようでした。別に女言葉を使っている訳でもないし、服装はだいたいショートパンツでしたけど、女の子にしか見えないと言われました。それで新しいクラスでも私の愛称は今まで通り「エリ」または「エリちゃん」で固まりました。

その中でこのクラスで初めて知り合った子で明子という子がいて、この子とすごく仲良くなりました。その明子も最初完全に私を女の子と思いこんでいて、私がしばしば男の子として扱われているのをいじめだと思っていたようでした。で、前から私と同じクラスだった子から「エリはほんとに男の子なんだよ」と言われて「信じられない」というものだから、私は最終手段で、あそこを触らせてあげました。

するとそれでも信じられないという顔をしていましたが、「でも、エリちゃんどうみても女の子だよ。タマ取ったりしないの?」と聞きます。

私は「タマ」というのが何のことか分からなくて、きょとんとしていました。するとそれを察したのか明子は「つまり、睾丸よ。分かる? そのぉ、金玉」その時初めて私はあれを「睾丸」というのだということを知りました。「睾丸、取るとどうなるの?」「エリって何も知らないのね。睾丸取っちゃえば声変わりが来ないし、ヒゲとかも生えてこないよ。エリ、コーラス部でソプラノなんでしょう?昔は大人になってもソプラノが出る歌手を作るのに睾丸を抜いてたんだよ。今じゃ抜かなくても技術で出す人がいるけどね」声変わりのことは知っていましたが、それが睾丸と関係あるということは、その時初めて知りました。

「うん。エリ、性転換手術受けてさ、睾丸も陰茎も取って女の子になった方がいいような気がするな」「陰茎って?」「ほんとに知らないの?そのぉ、チンチン」性転換手術のことは知ってましたが、その手術の方法を説明した週刊誌の記事は実は理解できずにいました。この時初めて、チンチンとタマタマを取るんだ、ということを知ったのでした。考えてみると当然のことのような気がしました。

しかし明子の存在は私の生活をかなり大きく変えました。それまでも私はだいたい遊ぶとき女の子の輪の中にいることが多かったのですが、明子のおかげで、4年生以降はまず確実に女の子たちとばかり遊ぶようになりました。そして平気で男の子の品定めや女の子だけの秘密の会話を楽しんでいました。そうしていつしか誰もが私のことを実は男の子と知ってはいても、誰も男の子とは思っていないという状況になりました。

明子の家にもよく遊びに行きました。初めて行った時、明子は私にスカートを履かせました。「全然違和感ないね」「コーラス部の大会の時に履いたから」「そんなの1度だけでしょう?エリ、履き慣れてる感じだよ」と言いますので、そこで私は正月に従姉の家で半月ほど女の子の格好で過ごしたことを告白しました。

「なるほど。それでか」と明子はうなずき、うちに来た時はスカートを貸してあげるから履いてていいよ、と言ってくれました。そこで明子の家に行く度に私はスカートを借りることになりました。明子の家には他の女の子もよく遊びに来ていましたが、私はその子たちの前でもスカート姿を見せることになりました。みんな「可愛い」と言ってくれましたし、言われるまで私がスカートを履いていることに気付かない子もいました。それほど私は自然にスカートを履きこなしていたようです。このことはやがてクラスの女の子たちの間では公然の秘密となりました。また時にはその格好のままで外出したり他の子の家に行ったりもしましたが、他の子の家に行ってもそこの親は来ているのはみんな女の子と思っていたようです。やがて他の子もスカートや可愛い服などを貸してくれたりするようになりました。

その年の学芸会はクラスで「シンデレラ」をやることになりました。そのシンデレラ役には明子が選ばれました。私は特に役はなかったので、明子のセリフの練習の相手役をずっとしていました。そしていよいよ3日後が本番という時!なんと明子が盲腸で入院してしまったのです。

突然の主役のダウン。みんなどうしていいかパニックになりました。私や何人かの友達、それに先生が一緒にお見舞いに行きますと、明子はみんなの前で、私に代役をして欲しいと言いました。ずっとセリフの練習の相手をしていたからセリフが全部入っているはずだ、というのです。「うん、それはいい」とみんな納得の同意。先生は男の子にシンデレラができるか少し不安なようでしたが、お見舞いから帰って即、私が明子の衣装を付けて(私と明子は背丈がほとんど同じでした)通しの練習をしてみると、確かにセリフは全部入っていましたので、実際に演技するのが初めてなのでとまどった部分はありましたが、何とか破綻なく最後まで行けました。そこで先生もこれは行ける、と確信。しかし男の子に女役をさせるには親の同意がなくては、と先生は私と一緒に家に来て母と話をしました。

これは私もちょっと不安だったのですが、母は先生から事情を聞くと驚いたようではありましたが仲良しの明子のピンチヒッターということで納得し「この子は小さい頃はよく女の子の格好をさせていたんですよ」などと昔話もして、笑って同意してくれました。そして先生が帰った後、「女の子の役をするんだったら、少し慣れておいた方がいいね」と言い、そのまま私を町に連れていき、私に合いそうなスカートとブラウス、それに女の子用の下着を買いました。そして本番までの3日間、これを着ていなさいと言ったのです。

私は家に帰るとさっそくその服に着替えて母にその姿を見せました。するとあまりにも似合っているので、ほんとにびっくりしたようでした。妹は「お姉ちゃんができた」などと言って喜び、人形遊びを一緒にしてくれとねだりました。夕方帰宅した父は最初従姉の優美子が来ているのかと思ったようですが自分の息子と知って仰天しました。しかし事情を聞くと「エリは最初は女の子だったからな。女の子のまま大きくなっていたらこうなってたのか」などと言って、うなづいていました。そして「この格好で学校に行くのか?」と聞きます。母もそこまでは考えていなかったようですが「当然よ。慣れるためには。それにこのエリを見て男の子と思う人はいないから大丈夫」と言い出しました。そこで翌日、私は生まれて初めてスカートを履いて通学することになりました。

いままで確かにスカートで出歩いたことは何度もありましたが、その時は優美子なり明子なり、頼れる人がそばにいました。しかしこの日は一人でしたので、かなり恥ずかしかったのですが、幸いにも学校につくまで誰も知っている人には会わずに済みました。でもクラスに入るとけっこうな騒ぎになりました。

「どうしたの?」と最初に声を掛けたのは昨日一緒にお見舞いに行っていた恵子でした。
「シンデレラの役やるなら、女の子の服に慣れなさいって、お母さんが」
「今更慣れなくても、エリはいつも女の子の服着てるのにね。でも可愛い服だね」
「あれ、エリ。スカート履いて。チンポ取ったのか?」と事情を知らない男の子。
「明子がダウンしたからエリが代役することになったのよ。練習相手してたからセリフ全部入っているの。あんたやりたかった?」と恵子がかばって言う。

このスカートでの初登校は女の子たちには概して好評。男の子たちも最初は少し憎まれ口を言っていましたが、結局は似合っていることを認め、「学芸会終わってもずっとそのままがいい」などと言われました。やがて入ってきた先生も少し驚いていたようでしたが、女の子の格好が全然違和感ないので「では、学芸会まではずっと女生徒として過ごすように」と言いました。

そこでこの3日間は先生からは「川口君」ではなく「川口さん」と呼ばれ、トイレは女子用を使うことになり、体育の時間も恵子が貸してくれたブルマを履いて女子として授業を受けました。学芸会にはコーラス部の方でも出るのですが、スカートを履いて練習に行った私をみんな歓迎してくれて顧問の先生からは「学芸会の衣装で悩んでいたけど心配なかったわね」と言って、女子の制服を渡されました。そして「これからはずっと女の子の格好でいてくれたら先生も安心なんだけどな」とまで言われました。

この3日間は私にとって天国のような気分でした。そして本番の日、コーラス部ではソプラノで「野バラ」「みどりのそよ風」を歌い、クラスの劇ではシンデレラを演じました。これは私にとってひとつの区切りとなる日でした。

無事演じ終えた私をクラスのみんなは拍手で迎えてくれて、学級委員の斉藤礼子が私に「みんなで話して、これをあげることに決めたから」と言って、賞状用紙に書いたこんなものをくれました。

名誉女子の証

川口英里はこの上もなく女性的である。
よって名誉女子に認定する。

・授業やクラスの行事では全て女子として扱う。
・トイレは女子用を利用のこと。

4年1組担任 田中次郎

ということで、担任の先生の名前と印鑑もちゃんと押してありました。礼子は「必ずスカート着用のこと、というのも入れようという話もあったんだけど、エリはスカート履いてなくても女の子にしか見えないから、それは家庭の事情もあるだろうし本人に任せようということになったから」と付け加えました。

そういう訳で、これ以降私は完全に女の子として扱われるようになり、体育の着替えも女子と一緒、トイレも女子用ということになってしまいました。

一方、その「家庭の事情」の方ですが、母は「可愛かったじゃない」と言い、「いっそ、このまま女の子になってしまう?」と冗談ぽく言いました。が私はそれに対して「うん」と答えてしまいました。すると母はとまどったような表情を見せていましたが、「エリが構わないのなら、しばらく女の子の服着てもいい。でも....」母はそう言ってから迷っているようでしたが、すぐに私を連れて町に出て、スーパーで私に合うキュロットを買ってくれました。「お父さんはエリが女の子になっちゃったらショックかも知れないからね。家の中でお父さんがいる時はこれを履いてなさい。男の人にはキュロットとショートパンツの違いは分からないから。」

それは母が私が女の子の格好をすることを認めてくれたということでした。ただ、この時点では母もこういうことにすぐ飽きるだろう、と思っていたようです。でも私は飽きるということはなく、学校には女の子の格好で通学するようになり、帰って来たらキュロットやショートパンツに着替えるようにしました。そして下着は常に女の子用をつけているようになりました。そして母にねだってブルマも買ってもらい、体育もそれで出るようになりました。