Arabella
(リヒャルト・シュトラウス作曲)
あらすじ
1幕
軍人を退役したヴァルトナー伯にはアラベラとスデンカの2人の娘がいるのだが、借金苦のため、妹のスデンカには社交界へ出せるお金がないために男の子として育てている。一家はウィーンのホテルに滞在中だが、母親アデライーデは美人のアラベラが、玉の輿に乗ってくれることしか家族を救う道はないと思っている。
アラベラにはエレマー・ドミニーク・ラモラールの3人の伯爵だけでなく、軍人マッテオからも求婚されている。アラベラはマッテオを鼻にもかけない。スデンカはマッテオを愛しているのだが、彼の思いつめている様子を見て、姉との仲を取り持とうとして励ます。
スデンカは姉のマッテオに冷たい態度を非難するが、彼女は3人の伊達男だけでなくて、他に気になる男がいるのだという。窓から彼の姿をみたアラベラは動揺する。一方、ヴァルトナーは、軍人時代の大金持ちの友人マンドリカへの手紙にアラベラの写真を同封した。やってきたのは甥のマンドリカで、伯父は既に他界していたので自分がその手紙を読んでしまい、アラベラの写真に心奪われたのだという。彼はクロアチアの広大な領地をはじめとする伯父の財産を受け継いでいることとその気前の良さにヴァルトナーは浮かれてしまい、舞踏会で娘と会わせる約束をする。アラベラはエレマーに誘われてスデンカと一緒に謝肉祭の舞踏会へ行く。
2幕
ヴァルトナー伯はアラベラにマンドリカを紹介するが、既に2人は互いに惹かれあっている。マンドリカは婚約には娘が相手のところへグラス1杯の水を届けるという地元の風習を教える。アラベラはマンドリカに娘としての最後の夜を楽しみたいと言って、踊りに行き、3人の伯爵にも別れを告げる。
マッテオの弱気な様子を心配しているスデンカは彼を励ますために、自分のホテルの部屋の鍵を「アラベラの部屋の鍵」と言って渡す。その様子を見たマンドリカは不審に思う。それから、アラベラからの「もう帰ります。明日からはあなたのもの」という手紙を受け取り、自暴自棄になり舞踏会の庇護者フィアカー・ミリと興じる。アラベラの両親は、マンドリカに娘の居場所を聞くがあまりにも荒みきった様子にマンドリカを連れてホテルへ戻ることにする。
3幕
アラベラと幸福なひと時を過ごしたと思ってホテルの部屋から出てきたマッテオだったが、部屋に戻ろうとするアラベラとすれ違う。アラベラはつれない態度を取るが、あまりにも異様な気配に人を呼ぶと、両親とマンドリカがやってくる。マンドリカはアラベラがマッテオに自分の部屋の鍵を渡したことを非難する。決闘騒ぎにまでなるが、そこへスデンカが女装で部屋から飛び出してきて自分のしたことを告白する。マッテオは彼女の愛に感動し、アラベラも人を愛する意味の深さを感じる。マンドリカは嫉妬で自暴自棄になったことを恥じる。
アラベラはマンドリカに召使にグラス1杯の水を持ってくるように頼む。もう、愛想が尽きたのではないかと心配しているマンドリカのもとへアラベラはそれを持って来る。マンドリカは飲み干し、グラスを叩き割り、2人は永遠の愛を誓い合う。
このオペラは、色々な角度からとらえることができます。
時代は19世紀後半のウィーンです。ハプスブルク家を中心とする貴族の社交界も最後に燃え尽きる火のように輝こうとしています。華やかな社交界の裏には借金苦で苦しむ老貴族がいます。姉アラベラは舞踏会の女王としてあがめられ、伯爵トリオと軍人マッテオの求婚を受けています。妹も恋はしていますが、片思いでその相手は姉に夢中だということを知っています。自分は女として見てくれない。姉のキューピット役しか愛する人との接点がないということで必死につなぎとめようとします。同じ状況の家庭に生まれながらも、この姉妹の境遇は違い過ぎます。姉は玉の輿にのって一家を助けて欲しい、妹はお金をかけない人生を過ごして欲しいと、両親の娘に対する願望も違います。しかし、家庭の事情を知っている妹は、姉に嫉妬したり、両親を恨んだりすることもなく、ひたすら自己犠牲を自分の幸福であるように行動を取ります。
一家を助けることになったアラベラの結婚相手は、キザな3人の伯爵のうちどれでもありませんでした。クロアチアの広大な土地を持つマンドリカは湯水のようにお金を使うことができますが、決してウィーンの洒落た社交界を知っているわけではありません。
スデンカは少女なのですが、男装していますので、「薔薇の騎士」のオクタヴィアンとか「フィガロの結婚」のケルビーノと似た両性的な部分があります。最初からはっきりと女であることを告白して「お姉さんよりも、私の方が愛しているの。」と言えば大騒ぎにもならなかったのでしょうけど、姉にも相談していたように、女性は愛されることを待たなくてはならないという考えをプレッシャーに感じていたようです。彼女は大胆な行動を取ってしまったわけですが、それを隠そうとはしないで、大勢の前に出てきて、申し訳なさと恥ずかしさで大泣きしてしまいます。「一生、男でなければならない」と言っていた母親まで「これ以上は言わないで」と女性のたしなみを教えます。スデンカは家族以外からは女性として扱ってくれないにも関わらず、「女性はこうでなければならない」という考えからも自由になれているわけではないのです。
1幕には「薔薇の騎士」や「カプリッチョ」と同じような路線のヒロインのモノローグがあります。イタリアやフランスのアリアのように、観客に親しみが持てる音楽ではないのですが、R.シュトラウスによるこれらのモノローグは、その人物なりの深い考えが観客に伝わってくることがわかるのがすばらしいのです。また、ウィーンの社交界の華やかさの表現と土着的なクロアチアの民族的音楽の対比も良く、コロラトゥーラの脇役ミリも盛り立てています。