Peter Grimes

(原作グラッブ「町」/作曲ブリトゥン)

あらすじ

プロローグ

漁師ピーター・グライムズの徒弟の少年が、漁に出ている間、死んでしまった。日頃、グライムズは浮いた存在で、村人たちは快く思っていないので、疑わしく思っている。しかし、グライムズの責任を追及するには充分な証拠がない。「以後、少年を雇わないように」という勧告で、グライムズは無罪となる。未亡人の教師、エレンは彼に慰めの言葉をかける。

1幕

数日後、グライムズはまた、新しい徒弟の少年を雇うことにする。村人たちは非難するが、エレンはグライムズに前の事故から立ち直れるきっかけがあれば、と思い、少年を孤児院から連れてくる。グライムズはエレンとの結婚を夢見て、連れてこられた少年と一緒に嵐の中、家へ戻る。

2幕

教会の前のベンチで、エレンは編物をしながら少年に話しかけている。しかし、少年は浮かない顔で黙っている。エレンは少年の服が破けていたり、体中あざだらけであることに気付き、グライムズの児童虐待に気付く。時折、教会に出入りする村人たちがその様子を見ている。

グライムズは安息日にも関わらず、少年を漁に連れて行こうとする。彼は、子供に優しくしてあげて、というエレンを殴り、無理やり少年を連れている。その様子を見たパブの女将のアーンティは憤慨し、村人たちはグライムズの家に押しかけようとする。

グライムズは自分の小屋で少年を急き立てて、漁へ連れて行こうとしているが、村人たちが押し寄せてくるのに気付き、少年に後の扉からロープを伝って不ねに降りさせようとする。少年は手を滑らせ、悲鳴を上げる。グライムズは驚いて崖を降りて出て行く。村人たちがグライムズの小屋に入ると、誰もいないし、思ったより部屋が整然とされていることに安心する。しかし、退役船長のバルストロードだけは少年の破れた服に気付く。

3幕

バルストロードはエレンに子供用のセーターを海辺で拾ったことを話す。エレンは自分が少年のために編んであげたセーターであることに気付く。戻ってきたグライムズにバルストロードは沖に出て、そのまま舟を沈めるようにと自殺をほのめかし、グライムズはそれに従う。

    

****************************

 

このオペラの設定は1830年頃のイギリス東南部北海に面したオールドバラの海岸となっています。このオールドバラという町にブリトゥンは非常に愛着を持っていて、毎夏、そこで音楽祭を行っていました。さぞかし、いい村おこしになったことでしょう。

今でこそ、子供の人権が言われて、長くたちますが、産業革命以前のイギリスでは、少年も労働力のうちとされていました。実際、オペラでも「小姓」とか「羊飼い」のような働く子供が出てきます。しかし、オペラでみるほどのほほんとした仕事ではありません。「徒弟」という言葉が使われていますが、ドイツのマイスター制度のように若い頃から専門性の高い職人を育て上げる、という意味ではなくて、安い賃金で使えるということが重要なことのようです。また、炭坑関係ですと、体の小さい子供だからこそ狭いところへ入ることができて、作業がはかどるということもあったそうです。

グライムズは2人の少年を事故死させてしまいます。自分の思うように働いてくれないということで苛立ちを感じることがあっても、憎んでいたり故意で殺したのではありません。しかし、村人たちは少年に乱暴しているところを何度も見ています。ムラ社会なので、業務上過失致死でも、殺人というように思われてしまうのです。そして、ムラ社会では自分たちよりも異質に見える人を排除しようとする気持ちが働くようです。私もテレビで日本のある地方で某団体の人達に出て行けという住民運動に参加している人が「何を考えているのか分からない人が近所で暮しているのはぶっそうだ」といっているのを見ました。でも本当は家族同士だって何を考えているのかわからないでしょう。はっきり悪いことをすると分かっているのならともかく、分からないという理由で排除しようとするのです。自分の理解力のなさを他者攻撃のはけ口にしようとするのがムラ社会の悪いところです。しかし、逆に近所付合いのない、都会だと、少年が虐待されていても誰も気付かないまま、取り返しのつかないことになってしまうということもあります。近所の連帯があるからこそ、助け合えるという利点もあります。また、私も漁村で生活した経験がありますが、海で行方不明になった人がいたら、村全体で探そうとします。都会ではこういうこともないでしょう。

村人から白い目で見られ、過去の事故にトラウマを抱いている主人公、ピーター・グライムズにも本当は前向きな夢がありました。それは、漁でお金を儲けて、店を開き、エレンと結婚するということです。他の村人たちとは違って、エレンはグライムズに優しい声をかけますが、その言い方は大変、優等生的です。エレンにとっては、学校で仲間はずれにされている子供に優しい言葉をかけているのと同じことで、それは結婚へつながるような愛情からとは、言えないのです。彼にとっては集団性を重んじる陸の世界ではなくて、孤高の海の世界が向いているのです。

recommendhome