Pikovaya Dama

(プーシキン原作・チャイコフスキー作曲)

初演

1890年・サンクトペテルブルク マリインスキー劇場

登場人物

ゲルマン(士官、T)/トムスキー伯爵(Br)、エレツキー公(Br)、チェカリンスキー(T)、ナルーモフ(B)、チャプリスキー(T)、伯爵夫人(MS)/リーザ(その孫娘、S)/ポリーナ(その友人、A)/家庭教師(MS)/マーシャ(S)/世話役(T)/エカテリーナ2世(黙役)/その他(士官、貴族、劇中劇の出演者など) 

あらすじ

1幕

貧しい士官ゲルマンは名前の知らない女性に恋しているという苦悩を同僚のトムスキー伯爵に打明ける。彼女はどうやら、身分の高い女性で、自分には望みがない。トムスキーの友人、エレツキー公爵は自分が婚約したことを話し、のろけている。老伯爵夫人と、その孫娘リーザがやってくる。このリーザこそが、ゲルマンが恋に苦悩している相手で、エレツキーの婚約者なのである。ゲルマンは絶望するが、トムスキーは老貴婦人の昔の秘密にまつわる話をする。

「彼女は、若い頃パリの社交界で『モスクワのヴィーナス』と呼ばれ、賭博に夢中になっていた。ある時、賭博に負け、絶望していると、彼女に恋するサンジュルマン伯爵が、3枚のカードの秘密を教える代わりに、自分の恋を受け入れるようにといった。その秘密を知った彼女は『恋焦がれる男がその秘密を知ろうとしてきて、お前に死の衝撃を与えるだろう』という予言を受けたのである。それ以来、彼女は賭博をやらなくなった。」これを聞いた、ゲルマンは野心を抱き、急に自信を持つ。

リーザは自分の部屋で、婚約したにも関わらず、浮かばれない気持ちになっている。そこにゲルマンが窓から入って、愛を訴える。拒んでいた彼女もついに、受け入れてしまう。

2幕

仮面舞踏会で、エレツキーはリーザに身を引いてもよい、と話す。リーザはゲルマンにかけおちするために、祖母の寝室の鍵を渡す。

その日の夜、伯爵夫人の寝室にゲルマンは潜伏している。彼女が戻ってきて、椅子で休んでいると出てきて、カードの秘密を教えるようにという。彼女は恐がって言おうとしない。ゲルマンは焦ってピストルを見せると伯爵夫人は驚きのあまり発作を起して死んでしまう。リーザは祖母が死んでいるのを見て、ゲルマンの望みを知り、絶望する。

3幕

伯爵夫人の葬儀が行われている。ゲルマンはリーザからの手紙を読んでいると、伯爵夫人の亡霊が現れ、リーザと結婚して幸せにすることを条件に3・7・1と教える。

運河のほとりで、リーザはゲルマンを待っている。二人は再会を喜ぶが、賭博場へ行こうとするゲルマンにリーザは絶望し、運河に身を投げる。

賭博場で、ゲルマンは2回、カードに勝つ。3回目にエレツキーが相手を申し出る。ゲルマンはカードをエースと張るが、カードはスペードのクイーンだった。ゲルマンは自分をピストルで撃ち、リーザへの愛とエレツキーへの謝罪を訴えながら息絶える。

 

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ギャンブルにはまるとこんなに恐いんだよ…というストーリーです。宝くじを買ったり、競馬場などから戻ってきた後に見ると、本当に恐くなりますね。貧しいけど元々誠実な青年士官のゲルマンは、伯爵令嬢のリーザを高嶺の花と思い、あきらめなくてはならないけどあきらめられない…という苦悩があります。まるでマスネのオペラ「ウェルテル」の主人公に近いキャラクターです。彼女の婚約者は本当に身分・人格・容姿・知性…と申し分のない人ですが、それにひかえ自分は…とコンプレックスを持っています。彼は本当に出来すぎた人です。婚約解消を申し出るときも「私はあなたを愛しているが、束縛をしたくはない。ずっと良い友達でいたい」このセリフ、エレツキーが言うと、縁談を断る際のお決まりの社交辞令ではなくて、本心からのように見えます。

しかし、ゲルマンがギャンブルで成功すれば、自分の貧しいというコンプレックスは解消されます。リーザと駆け落ちしても生活するだけのお金が手に入るのです。それに目がくらんだゲルマンはやがて人格が破綻していきます。あれほど誠実だった彼は、リーザの為に大金を求めるのではなくて、大金の為にリーザを利用してしまう結果となってしまうのです。彼女の祖母が死んだときも、リーザの親族を殺したことで、彼女との関係が悪くなることを心配することはなく、カードの秘密がわからないままになったことを残念がっています。真面目で純情だった青年がギャンブルに狂い、人を脅迫し、愛する女性を自殺に追い込み、自らも自殺してしまうという様は、演じる者に相当な表現力が求められそうな感じがします。

伯爵夫人がトランプに勝つための数字を教えたのは、リーザを幸せにすることが条件でした。しかし、ゲルマンはそれができませんでした。もしも、彼が貧しい士官のまま、リーザと駆け落ちした方が2人とも幸せになれたのではないだろうかと思います。しかし、賭け事で金持ちになれるという期待から、ゲルマンはリーザを口説くための勇気が生まれたのは否定できません。もしも、伯爵夫人の秘密を彼が知らなかったら、リーザと幸せになるどころか、面識のない人で終わってしまっていたのかもしれません。

他のロシア・オペラだったら、元々真面目なゲルマンがこんな風になってしまったのは、金権主義を生み出した階級社会のせい…という風に行きそうですが、チャイコフスキーは「エウゲニー・オネーギン」のオネーギン同様、そうなった背景よりも、人物そのものを冷ややかに見ています。そして、ヒロインをロシアの理想的な女性として描いています。

暗い内容のため、つい敬遠してしまいそうな方は、舞踏会での劇中劇に注目すると良いでしょう。「忠実な羊飼いの娘」というバレエ・オペラが上演されます。羊飼いの娘の所に、ある金持ちが、財宝を見せながら自分のものにならないか、と誘うが、彼女は財宝よりも愛情を選び幼馴染の羊飼いの少年と結ばれるというストーリーです。音楽はモーツァルトのようで、非常に牧歌的です。

 

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